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浦和地方裁判所 平成元年(わ)288号 判決 1990年1月17日

本店の所在地

埼玉県三郷市早稲田五丁目五番地一五

法人の名称

新星商事株式会社

代表者の住居

東京都小金井市関野町一丁目二番一四号

代表者の氏名

青木新治

本籍

埼玉県三郷市駒形三七五番地三

住居

同市半田一、〇七六番地

会社経営

工藤幸三

昭和一四年九月二五日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官山下司出席のうえ審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人工藤を懲役一年六月に、被告会社を罰金一億円に、それぞれ処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社新星商事株式会社は、埼玉県三郷市早稲田五丁目五番地一五に本店を置き、宅地建物取引業及び宅地の造成開発業等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人工藤幸三は、被告会社の実質上の経営者として同会社の業務全般を統轄しているものであるが、被告人工藤は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、土地売上げ金額並びに土地仲介料収入等の一部を除外し、あるいは架空経費を計上するなどの不正な方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六〇年一一月一日から同六一年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五、三四八万〇、八六〇円(別紙(一)修正損益計算書参照)で、課税土地譲渡利益金額が四、九一八万九、〇〇〇円あったのにかかわらず、同六二年一月五日、同県越谷市赤山町五丁目七番四七号所在の所轄越谷税務署において、同署長に対し、欠損金額が二二一万五、五六五円で、課税土地譲渡利益金額が二、三九五万三、〇〇〇円であり、これに対する法人税額が四四七万五、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の同事業年度における正規の法人税額三、一六九万五、四〇〇円との差額二、七二二万〇、一〇〇円(別紙(二)脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和六一年一一月一日から同六二年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七億七、五三五万五、九四〇円(別紙(三)修正損益計算書参照)で、課税土地譲渡利益金額が六億二、四五〇万円あったのにかかわらず、同六三年一月四日、前記越谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一、〇〇六万四、九九八円で、課税土地譲渡利益金額が二、八六四万八、〇〇〇円であり、これに対する法人税額が七八八万七、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の同事業年度における正規の法人税額四億五、五五四万〇、九〇〇円との差額四億四、七六五万三、〇〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人工藤及び被告会社代表者の当公判廷における各供述

一  被告人工藤の検察官に対する平成元年四月七日付供述調書

(証拠等関係カード乙10)

一  被告会社代表者青木新治の検察官に対する各供述調書

一  阿部馨の検察官に対する各供述調書

一  深井市之助、丸山詔久、村佐ちよの収税官吏に対する各質問てん末書

判示冒頭の事実につき

一  登記官作成の会社登記簿謄本

一  被告人工藤の検察官に対する平成元年四月六日付、同年同月七日付各供述調書(証拠等関係カード乙11)

判示第一及び第二の各事実につき

一  被告人工藤の検察官に対する平成元年四月一〇日付、同年同月一一日付、同年同月一三日付、同年同月一五日付、同年同月一七日付、同年同月一八日付、同年同月一九日付、同年同月二〇日付、同年同月二一日付((二通))、同年同月二二日付((三通))、同年同月二四日付、同年同月二六日付各供述調書

一  永野竹司、工藤馨、居山秀雄、江口優章、宮田茂、高塚行夫、竹田一平、面来利勝、澁谷義男、寺田元一、小野吉男(三通)、横山光芳(二通)の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の土地売上収入調査書、土地仲介料収入調査書、対策費収入調査書、期首棚卸高調査書、仕入高調査書、支払手数料調査書、期末棚卸高調査書、賞与調査書、コンサルタント報酬調査書、交際費調査書、賃借料調査書、水道光熱費調査書、支払手数料調査書、対策費調査書、支払名義料調査書、事業税認定損調査書、雑費調査書、受取利息調査書、支払利息割引料調査書、固定資産売却損調査書、交際費限度超過調査書、役員賞与調査書、寄付金の損金不算入額調査書、申告欠損金調査書、土地譲渡利益金額調査書

一  検察事務官作成の平成元年四月二六日付、同年六月九日付各電話録取書

一  越谷税務署長作成の証明書

一  検察官作成の平成元年四月二六日付(七通)、同年同月一九日付、同年同月二一日付、同年五月二日付各報告書

一  検察事務官作成の平成元年四月二四日付報告書

判示第一の事実につき

一  名倉秀雄、渡辺喜久、鈴木勘祐の検察官に対する各供述調書

一  堀切辰雄の収税官吏に対する質問てん末書

判示第二の事実につき

一  中村国彦、大野道雄、長峯正之、恩田潔、宇羽野和惠、遠藤カヨ、豊﨑藤吉、緒方芳弘、秋山茂一、髙川邦彦、川島鐡男、長谷川貞夫(二通)、臼井勝吉、田邊鐡三郎、岡田辰雄、立野孖、平野茂輝、田中清介、斉藤智恵子、柳澤光孝、千代田繁雄、田中隆、川又秀信、梅田光一、南川淳一、横山信義の検察官に対する各供述調書

一  検察官作成の電話録取書

一  宇田京子作成の答申書

一  小室忠道の収税官吏に対する質問てん末書

(弁護人らの主張に対する判断)

判示第二の所為のうち、検察官において、被告会社が昭和六二会計年度(昭和六一年一一月一日より同六二年一〇月三一日まで)に、いわゆる「パークフィールドみさと」第二次開発事業につき株式会社小松原研修事業団(以下、「小松原研修事業団」という。)と株式会社リクルート・コスモス(以下、「リクルート・コスモス」という。)との間に締結された共同事業契約取りまとめのための報酬(いわゆるジョイント料)として、ユニゾン株式会社(以下、「ユニゾン」という。)を通して京葉住宅株式会社(以下、「京葉住宅」という。)をダミーとして三億七、〇〇〇万円を受領しながら、これを秘匿した旨主張している点に関し、弁護人らは、被告会社がユニゾンから受取った検察官指摘の金は、いわゆるジョイント料ではなく、前記開発事業を将来円滑に進めるための地元対策費であるうえ、その金額も合計二億五、〇〇〇万円であり、かつ、その受領も昭和六二年一二月一五日に一億九、〇〇〇万円、翌昭和六三年五月一八日に六、〇〇〇万円と翌会計年度になされているものであるから、検察官の主張は所得金額の点で過大であるのみならず、そもそも、その受領した日時からして翌昭和六三年度の所得として計上すべきものであって、昭和六二年度の所得としている点でも誤りである、小松原研修事業団とリクルート・コスモスとの間に締結された共同事業契約の取りまとめは、もっぱらユニゾンの梅田光一においてなしたものであって、被告会社も被告人工藤もこれに全く関与しておらず、被告会社においてそのジョイント料を取得すべき筋合は全くない旨主張している。弁護人らの右主張は、被告人工藤の当公判廷における供述に全面的に依拠したものであることは明らかであるが、被告人工藤の当公判廷におけるこの点に関する供述をつぶさに検討すると、被告人工藤は、当初右梅田に対し、小松原研修事業団及びリクルート・コスモスに対し、それぞれ右共同事業にかかる土地総額の三パーセントを要求するよう指示したところ、その後右両者からいずれも一・五パーセントに値切られ、さらに小松原研修事業団からは一億円に値切られた旨、捜査段階における被告人工藤の供述に符合する経緯を当公判廷においても供述しているのであるが、右の三パーセントなり一・五パーセントなりの金額、あるいは小松原研修事業団との間に最終的にとりきめた一億円の金の性格について、一方では被告会社の受取るべき地元対策費である旨供述しながら、他方ではユニゾンの受取るべきジョイント料と被告会社の受取るべき地元対策費の双方をひっくるめたものであることを前提としているとしか理解できない供述をしているなど最も肝腎の点についてきわめて瞹眛模糊とした供述をしていること、被告人工藤が捜査段階における己の供述とのこの点に関する自己矛盾に関し納得のできる説明を全くなしえていないこと、その他の点でも自己矛盾や不自然な点が少なからず散見されること、被告人工藤は弁護人らの質問に対してはすらすらと供述しながら、検察官や裁判所の質問に対しては質問をそらして答にはならない答えをもって臨み、あるいはしばしば絶句して弁護人らの顔色をうかがうなどしどろもどろの供述態度に終始していることなどに徴し、それ自体からして信を措きえないものであることは明らかであるうえ、他の関係者の捜査段階における一致した供述とも真向うからくいちがっていること、そもそも被告人工藤の当公判廷における右供述は右被告人との綿密な打合せの結果作成されたものと認められる弁護人らの冒頭陳述書の主張とさえくいちがったものであること、被告人工藤は、当初国税局の取調べの段階でも当公判廷におけるこの点に関する供述と全く同一の内容を査察官に述べていたところ、昭和六三年当初にいたり査察官の圧力に屈して前記のような検察官の主張に沿う供述に変更したものである旨当公判廷において供述しているのであるが、右被告人が国税局の取調べの最初の段階から前記のような検察官の主張に沿う供述をしていたことは、収税官吏作成の土地仲介料収入調査書中の右被告人の供述記載からして明らかであり、したがって右被告人の当公判廷における右弁解が虚構に他ならないことは疑を容れる余地の全くないものであることなどに照らし、到底信用できないものであるといわなければならない。

他方、被告人の捜査段階における供述(検察官に対する平成元年四月一三日付供述調書)は、昭和四七年ころにフジタ工業が三郷の開発に乗り出してきた時点以降の三郷開発をめぐるフジタ工業、三井不動産など大手ゼネコンの動向、右被告人自身がその地上げにたずさわり、フジタ工業に土地の管理を依頼されていた状況、小松原研修事業団が三井不動産の肩代りをして乗り出してきてフジタ工業と手を組むにいたった経緯、右被告人が小松原研修事業団からも地上げや地元の開発反対運動の抑え込みなどの依頼を受けて奔走し、多額の手数料、コンサルタント料、近隣対策費などを小松原研修事業団やフジタ工業から得ていた状況、小松原研修事業団が勤労者住宅協会や間組と手を組みその第一次開発を推進、完了した経緯等いわゆる本件第二次開発にいたるまでの三郷の宅地開発をめぐる経緯をつぶさに供述したうえ、勤労者住宅協会が手を引いて小松原研修事業団が新たなパートナーを求めるようになったところから、右被告人がユニゾンの梅田を使ってリクルート・コスモスと手を組ませようとしたこと、梅田や小松原研修事業団の役員との接触、交渉、いわゆるジョイント料とそのうちのユニゾンの取り分決定の経緯、南川淳一に右ジョイント料の受皿となるべきダミー会社の京葉住宅をさがさせたうえ、同社に名義貸料として一億二〇〇〇万円を支払うことを約したこと、結局昭和六二年一二月一五日に南川から右名義貸料をさしひいた二億五〇〇〇万円を受取ったことなど本件に関する一連の事実関係をそれぞれの時点での自分の思惑、心情をも吐露しつつ、きわめて詳細、具体的に述べたものであって、その内容も客観的な事実関係の流れからして不合理な点のいささかもないごく自然なものであるうえ、その内容には取調官においてあらかじめ他の関係者の供述等から知りえたとは到底認めがたい事項が多く含まれており、この点からしても、右供述が取調官の誘導や押しつけによるものではないことが明白であること、その内容は梅田や南川の供述のみならず、小松原研修事業団やリクルート・コスモスの関係者との供述ともよく符合していることなどに照らして、十分に信用できるものといわなければならない。したがって、弁護人らのこの点に関する主張は、弁護人らのその余の主張につき按ずるまでもなく、排斥を免れない。なお、弁護人らは、右の三億七〇〇〇万円がジョイント料であることを前提としたうえ昭和六二会計年度の経過後に小松原研修事業団やリクルート・コスモスからユニゾンを介して被告人工藤に支払われている点をとらえてこれを同会計年度の所得とみるべきではないとの冒頭陳述における主張をもなお維持しているものと解せられるので、この点についても付言するに、たしかに金員の支払は本会計年度経過後になされていることは弁護人らの指摘するとおりであるけれども、小松原研修事業団とリクルート・コスモスとの間の共同事業契約も、ユニゾンを名目人とする被告会社と小松原研修事業団及びリクルート・コスモスとの本件ジョイント料支払契約もすべて本会計年度中に締結されていることは関係証拠に照らして明らかである(本件ジョイント料が小松原研修事業団とリクルート・コスモスとのいわゆる縁結びをしたこと自体の対価であって、右両社の共同事業に対する将来の協力に対しての対価の趣旨をも含むものではないことも、関係各証拠からして疑をさしはさむ余地は全くないところというべきである。)から、右報酬(ジョイント料)は本会計年度中に具体的債権として発生したものというべく、したがって、これを本会計年度の所得と認めた国税当局及び検察官の措置は正当といわなければならず、弁護人らのこの点に関する主張も採用できない。

(法令の適用)

被告人工藤の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、右被告人の判示各所為は被告会社の業務に関しなされたものであるから、被告会社については同法一六四条一項によりいずれも同法一五九条一項の罰金刑に処すべきところ、情状によりいずれも同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人工藤については、同法四七条本文、一〇条により犯惰の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、被告会社については、同法四八条二項により判示第一及び第二の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人工藤を懲役一年六月に、被告会社を罰金一億円に処することとする。

(被告人工藤及び被告会社の情状)

本件は、被告会社の実質的経営者である被告人工藤が、被告会社の営業に関し、土地売買、土地売買仲介手数料、地元対策費などの形できわめて高額の所得をあげながら、数多くのダミー会社の取引であるかのように仮装し、あるいはこれらのダミー会社を被告会社の取引に介在させたように仮装してその取引にかかる所得の全部または一部を隠匿し、他方では、これらのダミー会社に対する架空の経費を計上するなどの手口により、二会計年度にわたり、被告会社の総額七億円余にのぼる所得を秘匿して合計四億七〇〇〇万円余にのぼる法人税を逋脱したという事案であるが、その逋脱にかかる税額がきわめて多額であることや、その脱税の手口が甚だあくどいもので逋脱率もきわめて高率であることに徴するとき、脱税事犯としてもかなり悪質重大なものといわなければならない。

右のような本件脱税の手馴れた巧妙な手口、態様に加えて、前判示のように、右被告人が被告会社の実質的経営者として被告会社の業務全般を統轄し、その実権を全面的に掌握していた身でありながら、自らは代表者その他の役員に名を連ねることもせず、また、被告会社から給与等の何らの報酬も受取らないことによって、被告会社との右のような密接なつながりを税務当局に秘匿し、被告会社の脱税が発覚した場合にも自己に累が及ぶことのないようあらかじめ画策していたことを併せ考えるとき、本件犯行はきわめて計画性の強いものであると認めざるをえず、また、右被告人は、被告会社が黒字に転じて以来毎年のように本件と同様の手口で脱税を反覆してきたものであり、その結果昭和六〇年に越谷税務署の摘発を受けて逋脱にかかる多額の法人税等を追徴賦課されたにもかかわらず、性懲りもなく今回またしても阿部馨らの再三の制止を無視してさらに大がかりな脱税を敢行したものであることに徴するとき、こと脱税に関するかぎり右被告人の常習性、法無視の態度には顕著なものがあるといわざるをえない。加えて、右被告人は本件の秘匿にかかる所得のうちその少なからぬ部分を自己の放蕩、遊興に蕩尽費消しているのであり、右被告人がすでに多額の資産を有する身でありながら右のような所為に及んでいることに照らすとき、本件は甚だ利欲犯的色彩の強い犯行であって、右被告人の貧欲さをはしなくも露呈したものと評するの他はない。以上の諸点に、被告人工藤及び被告会社代表者が、前述のように、当公判廷においていたずらに虚偽の供述をくりかえし自己の罪費を軽減するに汲汲としており反省の情もきわめて乏しいと認めるの他はないことを併せ考えると、犯情はきわめて悪く、また、再犯のおそれも強いといわざるをえず、右被告人及び被告会社の罪責は重大であるといわなければならない。

近時、不動産業者、地上げ業者によるこの種の悪質な脱税事犯が跡を絶たず、世間の著しい顰蹙を買い、きびしい社会的非難の対象となっている現状にかんがみるとき、一般予防の見地からしても、本件について寛刑をもって臨む余地は全くないところといわなければならない。

したがって、交通事犯を別にすれば被告人工藤には前科前歴がなく、右被告人がこれまで多年にわたり正業に従事し、また、地域社会にもそれなりの貢献をしてきたこと、右逋脱にかかる法人税に重加算税、延滞税を含めて完納されていることとか、右被告人の妻の病状を含む右被告人の家庭の事情、被告会社の内情など弁護人らるる強調する、右被告人あるいは被告会社のために酌むべき事情一切を十分に考慮しても、右被告人に対して刑の執行猶予の恩典を考慮する余地は全くなく、また、被告会社についても主文程度の罰金はやむをえないところと思料される。

したがって、主文のように判決した次第である。

(裁判官 日比幹夫)

別紙(一) 修正損益計算書

<省略>

別紙(二)

<省略>

別紙(三) 修正損益計算書

<省略>

別紙(四)

<省略>

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